Perfect Days ～新しい1日～

映画「Perfect Days」を観てきた。とても心穏やかになる映画であるが、プロジェクトマネジメントにも通じる貴重な気付きをもらった。

２つとして同じ１日はない。毎朝が、新しい一日の始まり。

我々の生活は、毎日、毎週決められた仕事やプライベートの予定によって成り立っている。そのため、毎日同じことを繰返している単調な生活のように錯覚するが、２つとして同じ物事がないように、今日の1日は、昨日の1日とは必ず違う変化がある。そして明日の1日は、今日の1日と同じになることはない。

役所広司が演じる主人公の平山は、朝起きて出かけるときに必ず一度、空を見上げる。今日もまた新しい一日が始まった歓びと期待を噛みしめているのだろう。

平山は、カメラを持ち歩いており、公園などでお気に入りの木漏れ日を見つけるといつもシャッターに収めている。この「木漏れ日」という日本語は、他の言語には翻訳できない言葉だそうだ。木の葉の陰から漏れてくる太陽の光を指しているが、木の葉のかたち、風が吹く様子、太陽や雲の具合が全て絡み合って木漏れ日ができており、それは、２つと同じ状態がないそうだ。

今日が昨日の繰返しではなく、新しい一日なのだと受け止めたら、何か清々しく気持ちになれる気がしてきた。

時間は後戻りしない。であれば過ぎた後悔よりも、これから起こることに期待する。

新しい一日というのは、ラッキーなことが必ず起こるわけではなく、良くないこと（それこそ後悔したくなるようなこと）も起こることを意味する。「こうしとけばよかった」とか、「なんて運がついていないんだ」とか、それが誰かの行動に巻き込まれたトラブルなら「あいつ、馬鹿野郎」なんて気持ちになるものだ。平山にも、そんなことがしょっちゅう起こる。ただ、彼はそんな時、物事の悪い方にはあまり目を向けず、良い方を楽しんでいるようだ。どう見ても最悪じゃん、ということが起きても、次の朝には、空を見上げ、新しい一日への期待を膨らませることで、昨日起きた良くないことを早々に過去のことにしてしまう。

彼がノー天気な性格だからではない。実際、複雑な過去の出来事もあったようで、父親との断絶はその一つなのだろう。妹が彼に「もう昔の父親とは違うから、施設にいる父親に会いに行ってほしい」と伝えるが、彼はおそらく、会いに行かないだろうと思った。なぜなら、父親に会いに行くというのは、彼にとっては過去を振り返ることになってしまうからだ。

プロジェクトマネジメントも、同じなのかもしれない

プロジェクトマネジメントの基本である進捗管理は、毎週、毎日、定期的に進捗をチェックし、計画と実績が整合していることを繰り返しチェックする。プロジェクトの中で行われる進捗会議も、通常は週次でセットされ、決まった曜日・時間に毎週行われる。まさにルーチン・ワークとも言える。

近年では、VUCAの時代と呼ばれるように、プロジェクトを取り巻く環境は変化が激しく、不確実性や曖昧性が増し、より複雑になってきている。ともあれば、毎週、さらには毎日同じことが続いているという事態はどんどん減っており、様々な変化に直面しながら前に進めていかなければならない要素がより高まっているといえる。

当たり前であるが、プロジェクトも過去の事実を消し去ったり、修正することはできない。つまり、プロジェクトマネジメントも、常に前（未来）を見て進めていかなければならないのだ。そう考えると、プロジェクトマネジメントにおいて将来シナリオに目を向けることの重要性がますます増している。プロジェクトマネジメントの理想は、将来のリスクに対する予防がしっかりできていることで、リスクや障害を発生させず未然に防ぐことなのであるが、しかしながら、VUCA時代においてはリスクや障害と完全に距離を置くことはほぼ不可能である。そこでリスク予防と同程度に重要なのが、リスク発生後の機動的な対処の能力である。プロジェクトにとって時間が無駄に過ぎていくのは最大の浪費であり、過去を悔やんだり、落ち込んでいる暇はない。すぐに前を向いて、今起きている問題に立ち向かい、よりよい未来を辿り寄せなければならないのだ。

どんなプロジェクトも、そのゴールの日まで、毎日毎日新しい一日を迎えているのだと考えると、マネジメントのかたちも変わってくるのではないだろうか。